追われる者の決意
基本情報
著者 あべまりな
短編 『銀銀黒曜』2021年 青騎士
書籍 『あべまりな短編集 不思議な箱庭』紙:2022年 KADOKAWA / 電子:同年 同社
冒頭
鬼の角は珍品で権力の象徴でもあるため、人間の狩りの対象
中でも黒鬼の角は特別な力が宿るとされ狙われやすい
そんな黒鬼のルウは強くならなくてはと決意する——
感想|グッとくるコマ【序盤より】
鬼、とりわけ黒鬼の角は貴重で狩られる対象
はっきりと人間が悪者とされていますね
読者である我々人間(ですよね?)としては指を差されたようでドキッとします
地球の動植物にとって環境を破壊する人間は悪者かそれとも弱肉強食あるいは適者生存に準ずる存在か……みたいな議論って実際にありますもんね
ファンタジーという枠組みを越えて
主人公は角を狩られること、そして仲間の足を引っ張ってしまうことに怯えています
角——つまり自分のパーツないしは能力——なんかが敵であれ味方であれ他者にとって有用であるという設定が個人的に好きです
もしかしたらファンも多いのでは
(ふと思ったのですが、三角関係の恋愛モノもこの構図に近いですよね )
その理由を考えてみたのですが、人間はほとんど例外なく自分に価値があるかについて悩んでいるのではないか?
だから、フィクションの中で主人公たちが誰かから必要とされるのに憧れる
これって単純なようで結構深く難しいテーマだと思います
あなたはどう思われますか?
強くならなくては——
弱っちい主人公が成長して強くなることを決意する、ザ・王道展開
逆にこれが流行っていなかった時期があるのか知りたい
人間が心底欲するテーマです
応援したくなって、読者である自分もまるで登場人物の一人になったかのようですよね
ところで、こちらのコマの背景に木が映っているのを確認できます
主人公・ルウたちは森に住んでいる、ないしは拠点としているからです
宮崎駿氏の漫画『風の谷のナウシカ』にも(厳密には腐海ですが)植物に囲まれるシーンがあって、個人的に読んで以来森に対する印象が変わりました
話をこちらの短編漫画『銀銀黒曜』に戻すと、上記の理由から作品を通して森の様子が何コマにも渡って描かれています
これが本当に憧憬的で、一度読み切った後にこの背景だけを追っても心を奪われるくらい
ファンタジーはとりわけ背景に技巧が凝らされるため、ページを捲るのがすごく楽しみ
そこにあるのは卓越した想像力と、手のかかるにも関わらず描き切る勤勉さ
想像力からは勇気を、勤勉さからは「自分も頑張らなくては」という自戒を授けてもらえます
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