ホラーは怪しく侵入する
基本情報
著者 伊藤潤二
短編 『アイスクリームバス』1993年 眠れぬ夜の奇妙な話
書籍 『伊藤潤二傑作集 6 路地裏』紙:2011年 朝日新聞出版 / 電子:2012年 同社
冒頭
土曜の夕方になるとマンションにアイスクリームバスが来る
子どもたちに大人気だ
最近引っ越してきた主人公・園原と息子・友樹はそれに初めて遭遇
友樹はアイスを買ってもらいたがるが園原はお腹を壊すからと拒み——
感想|グッとくるコマ【序盤より】
バスのバンパーに目が……
ホラー漫画と言えば、何と言っても伊藤潤二氏です
ですから読者にとっても読む前から(今からホラー漫画を読んで背筋を凍らせるんだ……!)というコンセンサス(というか)がありますよね
よく考えるとだいぶマゾヒズム
コマをよくご覧いただくと、バスのバンパー部分に普通だったらあり得ない目がついています
そうです、序盤のこの段階でこの世界が常軌を逸していることが示されているのです
気づいた瞬間、ゾクっと目を疑いますよね
私のような素人考えでは、溜めに溜めた後に満を持してホラー展開……というのがセオリーなのかなと思いがちです
恥ずかしい話、発想が貧乏性なのかもしれない
しかし伊藤氏は他のいくつかの作品においても、序盤から(おそらく意図的に)ホラー要素を散りばめています
これにより世界観が一貫され、またあえて虚構と現実をより分離することで虚構の異質性が際立つわけです
この技術はファンタジーほど開き直りができないホラーだからこそ求められるのかもしれない
子どもに忍び寄るホラー
子ども×ホラーって特に怖いですよね
子どもの無邪気さが、宿命的に自己本位であるホラー要素と対照的だからでしょうか
それから大人だとある程度冷静かつロジカルに行動するためキャラクターとして悪い局面を避けようとするが、そうではない子どもは最悪へと突っ走るからというのもあるかもしれない
こちらの短編漫画『アイスクリームバス』のようにしばしば登場する怪異ですが、これがなぜ人間を襲うのか説明がない場合も多いです
一方で例えばミステリには多くの場合加害者に動機があり、探偵の謎解きの後に自白するシーンがありますよね
クライマックスの1つの醍醐味でもある
おそらく、ホラーはあえて説明をしないことで(動機がないということは、読者である自分も実生活においていつ標的になるか分からないんだ……)という恐怖を煽っているのではないか
そう考えると、漫画や小説、映画、怪談……一級のホラー作品を生み出すクリエイターはイジワルなのかもしれない
イジワルさが武器になるなんて芸術は懐が深いですよね(本当に)
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