家出するしかないとき
基本情報
著者 真造圭伍
短編 『ディパーチャー』2017年 ヒバナ
書籍 『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』紙:2022年 小学館 / 電子:同年 同社
冒頭
学園祭の前日、不注意で不良リーダーのおもちゃを壊してしまった主人公・宮本はいじめを恐れ家出を決心
それを帰宅部仲間に伝えていると、鳥羽山という仲の良くない同級生も加わり、4人で町を抜け出すことに——
感想|グッとくるコマ【序盤より】
学園祭の準備、進行中
主人公たちの思惑や行動とは別の線で学園祭の準備が着々と進行しているわけですが、この同時進行感がわちゃわちゃしていて良いですよね
あの騒がしい感じが今にも耳に伝わってきそう
我々の人生も基本的にいろんなことを同時にこなさないと遅れをとってしまうシステムですから
学園祭は文字通りお祭りで熱気を帯びる催しですが、思春期である主人公・宮本たちが示すどこか(つまり全部ではなく一部において)冷めた態度が対照的です
周囲のテンションがやたら高いのに自分だけがノれていない時の置いてけぼり感ってすごいですもんね
(周囲と自分のテンションが常に一致するとは限らない)
特に学校という誰もが経験したことのある環境が共感を強めています
日本の学園祭は世界的に見て珍しいという話をどこかで聞きました
海外では教育の一環として生徒が全員参加する文化的な催し(特にお祭り)がそもそもほとんどの場合ないらしい
ですから日本の漫画やアニメでよく学園祭が描かれていますが、結構驚かれるとのこと
友だち4人で家出
こちらの短編のタイトルである『ディパーチャー』(Departure)は辞書で調べたところ意味は出発や逸脱だそうです
家出の話ですから、それは非日常に出発するという前向きな行動であり、しかし言い方を変えれば日常から逸脱するという不安も伴っている——という両面を捉えた見事なタイトルですね
これがそのまま『出発』とか『逸脱』というタイトルだと文豪の書いた古い日本文学みたいで重くなりすぎるかもしれません
(重厚な方が読み応えがあって良い場合もありますが)
しかし英語であることでポップさが生まれ、さらに日本人が日本語を解釈するという堅苦しさを回避し、「広く解釈してくださいね / しますね」というコンセンサスが生まれ、とにかくタイトルがスッと入ってくる
家出という冒険は身近にある(あった)のに強く心を揺さぶるテーマです
あなたは家出をしたことがありますか?
そしてあの時の感情を憶えていますか?
個人的に、大人になって忘れてしまったドキドキを思い出させてくれました
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