和山やま『友達になってくれませんか』

気が合うというのはすごく素敵なこと



基本情報

和山やま『夢中さ、きみに。』KADOKAWA 表紙
引用元:和山やま『夢中さ、きみに。』KADOKAWA

著者 和山やま

短編 『友達になってくれませんか』2019年 コミティア

書籍 『夢中さ、きみに。』紙:2019年 KADOKAWA / 電子:同年 同社

冒頭

高校生の松屋めぐみはたった今すてきな小説を読み終え、充実した心持ちでその本の表紙と感想をSNSにアップした

すると珍しくリプライ

どんな人がくれたのかその人のポストを追ってみると——

感想|グッとくるコマ【序盤より】

和山やま『友達になってくれませんか』の1コマ 主人公・松屋めぐみが小説『鉄と鉄』を読んで
引用元:和山やま『友達になってくれませんか』-『夢中さ、きみに。』KADOKAWAより

主人公・松屋めぐみが小説『鉄と鉄』を読んで

 

フィクションの中に登場する架空のもの——つまり入れ子構造というやつでしょうか——って個人的にすごく興味を惹かれます

前提として、その作品だったりに私たち読者が触れることは叶わないからでしょうね

 

他の漫画の例を挙げると(構いませんか?)、久米田康治氏の漫画『かくしごと』の主人公・後藤可久士は漫画家ですが、彼は『風のタイツ』というゴルフ漫画を連載している設定、みたいな

ふと(この『風のタイツ』って具体的にはどういう内容の漫画なんだろう?)って不思議に思います

ニクいことに一度気になったら心は掴まれたまま

 

表題の短編漫画『友達になってくれませんか』の主人公に話を戻すと、例えば誰かがそれを好きだと述べている本とかって(へえ、そんなに良いものなんだ。私も読んでみたいな)ってソワソワします

心理学的には同一化と言うのかな

 

特に先述の入れ子構造だと、多くの場合において性質上その魅力的な作品についてページを多く割いて説明することができないため、読者は少ない情報からその魅力について想像を膨らますわけです

こちらのコマでは「人間と機械の友情……いえ 愛」がそれに該当します

 

それが一種の推理ゲームのようで私は好きです

想像を掻き立てられるのは優れた作品である証拠ですね

和山やま『友達になってくれませんか』の1コマ 世間で掲示されている文字を拾って撮影し、単語にしたうえでSNSにアップするという趣味
引用元:和山やま『友達になってくれませんか』-『夢中さ、きみに。』KADOKAWAより

世間で掲示されている文字を拾って撮影し、単語にしたうえでSNSにアップするという趣味

 

ユニークの一言に尽きますね

事実は小説より奇なりと言いますが、芸術家は何とか事実を超えた奇を生み出そうと悪戦苦闘されているのかもしれない

あまり表沙汰にはなりませんが、裏では結構バチバチだと思います

人間は成長する過程で、ふと気を抜くと普通の人になってしまう生物だから

 

こちらの短編漫画『友達になってくれませんか』が収録された書籍『夢中さ、きみに。』には(もちろん良い意味で)ヘンな奴がたくさん登場します

そして彼らはヘンだけど愛おしい

『夢中さ、きみに。』というタイトルも、ヘンな奴に(きみに)フォーカスを当てた(夢中である)ことを示しているのではないか——と私は推測します

これこそが根底に流れるテーマかもしれない

 

このテーマに切り込む勇気は優しさであり救済であると私は考えます

人間は誰しもがどこかヘンで、しかし社会に適応するためにそのヘンな部分を隠しているはず

そしてそれは少なからぬストレスであり、もっと大袈裟に言うと自分という存在を半ば強制的に歪めるという苦しみではないか

 

芸術にはルールブックがありません

それによって問題も多々発生しますが、救済をもたらすために、正攻法では手が届かない部分にまで手を差し伸べることができるのは良い面であるはずです

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