受け入れがたい別れ
基本情報
著者 冬虫カイコ
短編 『やさしい棺桶』2019年 pixivコミック
書籍 『君のくれるまずい飴 冬虫カイコ作品集』紙:2019年 KADOKAWA / 電子:同年 同社
冒頭
小さい頃、サナギからアゲハチョウが羽化するのを見届けた2人
そんな幼馴染で高校生だったサキが先週事故で亡くなった
しかしそれで主人公・マユとの絆が断ち切れることはなく、今サキは——
感想|グッとくるコマ【序盤より】
死因は事故
全編を通して、死因について触れられたのはこの「事故だった」の5文字だけです
死とはそもそも大きな出来事で、こちらの短編漫画『やさしい棺桶』もこの死から端を発する物語ですから、素人の私は(もっと死について掘り下げてみたら)と思いますが、あえて詳細に死の瞬間を描かないことで、それがあまりに突発的で非現実的な(現に事故ですが)出来事だったことが伝わってきます
描かないことで伝わることってあるんですね
それから(伝わらないかもしれない)という不安を振り切って、描かないという選択をされた勇気にも脱帽です
考えてみると、この描かないという選択はとりわけ短編漫画の執筆に求められ、また得意とする技術なのかもしれません
長編漫画であればページ数を充分に使えるため描きたいことを描こうと思えば(ほぼ)すべて描けますから
長編ではなく短編でありページ数に限りがあるという一種の制限があることによって、作品のクオリティが損なわれることなく逆に技術が振るわれる
これって素晴らしいことだと思います
基本的に手が使えないというルール(制限)のあるサッカーだから足技が磨かれるのも同じですね
制限によって新しい技術が生まれることを知っていると、人生への不満をそんなに多くは抱かずに済むかもしれない
死んでしまった幼馴染との写真を見る
先ほどは描かないことで伝わること、そして描かない勇気について言及(偉そう)させていただきました
今度のコマは逆です
私のような素人の考えでは必ずしも要するとは思えないコマが描かれており、なのに心がギュッと締め付けられる感動があります
ページの約半分という結構大きいコマで、ご覧の通りセリフや効果音もなく、こういったひとつひとつの要素が実に絶妙です
センスですね
いわゆる間というやつですが、一言で表せないくらい深い概念だと思います
ともすれば無駄と思えるようなマテリアルを散りばめることでより作品のクオリティが上がる
こう書いていてなぜそういう現象が起きるのか私には不思議です
もしかしたら、ストーリーの進行に必要な情報だけが事務的に提示されたら、このストーリーが作為的であることが読者に伝わってしまうからかもしれない
最悪の場合、スーッと冷めてしまいご都合主義とも受け取られかねない
もちろんフィクションは作り物ですし、著者も読者もそれは理解していますが、読者に作り物であることを意識させないことが肝要となる
大変な仕事です
作られたものだけどそれを忘れて夢中で読み進めている
(そうさせている)
これは大きな大きな達成で、幻想的という言葉がまさにピッタリ
おすすめ|ぜひ読んでみて
アーカイブ
\ ポストしてね /