手塚治虫『偉大なるゼオ』

どうして巨人が存在するか——



基本情報

手塚治虫『手塚治虫文庫全集 SFミックス』講談社 表紙
引用元:手塚治虫『手塚治虫文庫全集 SFミックス』講談社

著者 手塚治虫

短編 『偉大なるゼオ』1964年 週刊少年サンデー

書籍 『手塚治虫文庫全集 SFミックス』紙:2011年 講談社 / 電子:2015年 同社

冒頭

雪山で登山をしていた5人の男たち

霧が出て遭難の危機が高まったため、洞穴に逃げ込んだ

すると1人が、穴の奥に巨大な人の手があるのを発見し、よく確認するとその下には巨人が氷づけにされていた——

感想|グッとくるコマ〈序盤より〉

手塚治虫『偉大なるゼオ』の1コマ 雪山で巨人が氷づけに
引用元:手塚治虫『偉大なるゼオ』-『手塚治虫文庫全集 SFミックス』講談社より

雪山で巨人が氷づけに

 

保存といえば冷凍ですから、雪山で巨人が眠っているのは理にかなっています

いわゆるコールドスリープに近いです

それが人間であればカプセルのようなものをイメージしますが、巨人の場合身体が大きいため雪山自体が冷却装置になる

 

また日本では山岳信仰が根強いです

山という存在に神秘性を見出す国柄ですよね

山岳信仰は世界中にあるので、人間そのものに備わった思想でもありますが

 

よって雪山×巨人という組み合わせは、自然でありながら霊験あらたかです

こんなベストマッチは今までにありそうでなかった気がする

読んでいて惹き込まれます

 

コマをご覧いただくと氷づけの巨人は立った状態で腕を掲げていますよね

発見者はこのをまず目にし、仲間はその下に巨人がいることを確認したわけですが、物語を構成するうえで別に手である必然性はない気がします

(なぜこのポーズなんだろう)と想像するのも楽しいです

この巨人は偉大だから、眠るその瞬間まで力を発揚していたのかもしれない

メタ的になるが、このポーズが格好良いから著者の手塚治虫氏がこのように描いたのかもしれない

 

とにかく、雪山で氷づけにされている巨人というシチュエーションは実に想像力を刺激されます

ニクらしいほどです

手塚治虫『偉大なるゼオ』の1コマ 大昔、この地球に巨人が存在した……?
引用元:手塚治虫『偉大なるゼオ』-『手塚治虫文庫全集 SFミックス』講談社より

大昔、この地球に巨人が存在した……?

 

まさにロマンですね

巨人の存在がまず驚きなのに、それが最近宇宙(地球の外)からやって来たのではなく、大昔この地球に存在していたかもしれないことを示唆している

 

私たち人類より以前にこの地球で文明を築いた者たちがいる——というびっくりな説をちょこちょこ聞くことがありますよね

核戦争によってその文明は跡形もなく破壊されたとか、その者たちは地球を捨て宇宙へ旅立ったとか、とにかくSFもかくやという感じです

 

このような言説のいわゆる飛躍には功罪がありますが、ロマンとして、あるいはフィクションとして楽しむ分にはこれほどワクワクするものもありません

例えば学校や町など狭い舞台でしかも現代劇として描かれる物語ももちろんじんわりとした良さがありますが、地球ないしは宇宙規模で時間を大きく捉えた、すなわちスケールが壮大な物語もたまには(こればかりだと胃もたれするかもしれないからあくまでたまには)読みたいもの

 

スケールが壮大な物語を描くのには卓越した想像力勇気が必要なはずです

それが実現したことを私としては感謝したい

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