あの時のまま——
基本情報
著者 スズキスズヒロ
短編 『銃声を削り出す』2019年 Web Media マトグロッソ
書籍 『空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』紙:2019年 イースト・プレス / 電子:同年 同社
冒頭
工業高校の不良グループに属している主人公・青野
その不良たちのボス・住田がついに退学になった
時は経ち18年後、工場を経営する青野のもとに突然一本の電話がかかってきて——
感想|グッとくるコマ〈序盤より〉
タイトルロゴの載り方
物語が開始して何コマか後、シームレスに『銃声を削り出す』というタイトルが載っています
(特に昔多かった)映画みたいなパターンで格好良いですよね
書体もシブいです
著者スズキスズヒロ氏のあとがきによると、習字が上手かった中学の同級生の方に5年ぶりに連絡をとって書いてもらったのだそう
友情もアツいです
作品の内容と少しだけリンクしていますね
タイトルロゴの載り方って実は著者によって何パターンかあるようです
(1)こちらの短編漫画『銃声を削り出す』のように、作中のコマに挿入するパターン
(2)書籍の表紙のように、短編のタイトルを表示する専用の1枚絵を描き下ろすパターン
(3)描き下ろすことはなく、何もない背景に文字だけ載せるパターン
個人的には(2)が好きです
やはり1枚絵には迫力がありますし、物語が始まったという期待感が得られて嬉しい
先述の通り(1)も好きです
(3)は結構ミニマルですので、詩のような雰囲気が醸し出されますよね
結論:どれも良さがある
不良グループのボスが退学に
映っているのは不良グループにいるけれどどこか冷めている主人公・青野です
セリフは屋上の彼らを見ている教員のもので、文字通り不良グループのボス・住田が退学したということ
ですから結構冷たいセリフです
留年とか退学ってドロップアウト感がすごくて、当人たちにはきっと死活問題のように感じられる
個人的には大学でちょっと留年の危機が訪れたくらいで、まあ留年とか退学は経験しませんでしたが、同級生でそのような窮地に立たされた人間は何人かおり、その悩みも聞きました
それから、J・D・サリンジャーの小説『キャッチャー・イン・ザ・ライ』はまさに主人公のホールデン君が高校から退学処分を受ける話でしたね
だから留年や退学の実際的な損失はともかく、精神的なダメージの何分の一かは把握できるつもりです
一方で、極端な話、物語を読んでいる私たちはその物語にとっては不可侵の外野ですから、登場人物がどんな酷い目に会おうと、対岸の出来事です
コマの中の彼らの不幸を自分のことのように感じていたら、それは感受性を超えてちょっと心配な症状かもしれない
ですから、登場人物に強い気持ちで同情し、同時に冷静な態度で現実と虚構を分別する
読者としてこのせめぎ合いが無意識に自身の中で発生しているのを自覚する時、読んで良かったと思いますよね
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